歯周病と抗酸化作用
歯周病は、歯肉の腫脹・発赤および歯周ポケットの形成を特徴とする炎症性疾患です。
歯周病の原因は歯垢(デンタルプラーク)です。
歯垢は、細菌の塊・集まりです。
現在では、【バイオフィルム:BIOFILM】の概念が、一般的です。
バイオフィルムの概略
歯周病の予防には、2つの側面があります
歯周病の原因となる細菌(バイオフィルム)を
- 除去する
- 出来にくくする
細菌によって炎症を起こした細胞は、細菌に対する宿主の防御反応として、活性酸素種(ROS)を産生します。
しかし、炎症に伴いROSが過度に産生された場合、宿主の抗酸化力を超えた結果として、細胞のDNA・蛋白・脂質が酸化による損傷を受けます。
酸化によるダメージを、酸化ストレスと呼びます。
酸化ストレスが歯周病の悪化につながることは、明らかにされており、歯周組織の酸化ストレスを抑制することは、歯周病の予防に効果的です。
抗酸化物の摂取は、宿主の抗酸化力を高めて、炎症に伴う酸化ストレスを軽減させます。
ココア(カカオ)・ポリフェノールの歯周病予防効果
ココア(カカオ)・ポリフェノールの抗酸化作用
ココア(カカオ)・ポリフェノールは、高い抗酸化作用があることで有名です。
ココア(カカオ)・ポリフェノールを含んでいるのは、チョコレートとココアです。
つまり、ココア(カカオ)・ポリフェノールの摂取は、歯周組織の酸化ストレスを抑制し、歯周病の進行を抑える効果があります。
友藤 孝明氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科予防歯科学分野講師)は、実験的に歯周病を惹起させたラットモデルを用いて、ココア(カカオ)・ポリフェノールの摂取が、歯周病の進行に及ぼす影響を組織学的・生化学的に検証しました。
歯周病対策としてのココア(カカオ)・ポリフェノールの有効性について
抗酸化効果確認の実験方法
8週齢のウィスター系雄性ラット24匹を用いた。
ラットを3群に分け、対照(無処置+標準食)群、歯周病(歯周病+標準食)群、もしくは歯周病+ココア(歯周病+10%ココア添加食)群を割り当てた。
歯周病は、両側の下顎第一臼歯にリガチャーを巻いて惹起させた。
添加したココアには42.5mg/gのポリフェノールが含まれていた。
なお、実験期間は4週間とした。
各群間の比較は、一元配置分散分析(One-way ANOVA)とTukey法を用いて行った。
血清酸化ストレスおよび抗酸化力への影響
実験開始時(ベースライン)、実験開始後2週目、および4週目に採血を行った。
血液から血清を分離し、酸化ストレスとして血清のReactive Oxygen Metabolites(ROM)レベルを測定した。
また、総抗酸化力の指標として、血清のPotential Antioxidant(PAO)も求めた。
実験開始後2週目および4週目において、歯周病群の血清ROMレベルの値は対照群よりも有意に高く、また血清PAO値は対照群よりも有意に低かった。
これらのことは、歯周病の進行に伴い、血液の酸化ストレスの増加と抗酸化力の低下が起きていることを示している。
一方、歯周病群と比較して、歯周病+ココア群の血清ROMレベルは有意に低く、血清PAO値は有意に高い値を示した。
ココア・ポリフェノールの摂取は、歯周病による血清酸化ストレスの増加と抗酸化力の低下を抑制できると推測される。
歯周組織の酸化ストレスへの影響
実験開始後4週目に、歯周組織のBiopsyを行った。
そして、歯周組織の酸化ストレスと抗酸化力の指標として、ミトコンドリアDNAに含まれる8-hydroxy-2’-deoxyguanosine(8-OHdG)の濃度と、還元型:酸化型グルタチオン比をそれぞれ求めた。
歯周病群の歯周組織は、対照群と比較して有意に高い8-OHdG濃度と、有意に低い還元型:酸化型グルタチオン比を示した。
また、歯周病+ココア群の歯周組織は、歯周病群よりも低い8-OHdG濃度と高い還元型:酸化型グルタチオン比を示し、それらの差は有意であった。
以上のことから、ココア・ポリフェノールの摂取には、炎症を起こした歯周組織の酸化ストレスを軽減させる効果があることが示唆された。
歯周組織の炎症への影響
Biopsy後、残りの歯周組織を取り出して浸漬固定、脱灰、およびパラフィン包埋し、切片をヘマトキシリン・エオジン染色した。
また、成熟破骨細胞を同定するために、アゾ・ダイ法を用いてtartrate-resistant acid phosphatase(TRAP) 活性を検出し、マイヤーのヘマトキシリン(Merck、Darmstadt、Germany)で後染色を行った。
各切片の観察は、接眼レンズに接眼ミクロメーター(0.025mm方眼)を装着した光学顕微鏡を用いて行った。
各染色に対して1匹あたり3枚の切片を組織形態学的に測定し、その3つの値に対して1匹ごとの平均値を求めた。
1)歯周組織の形態分析
HE染色切片を用い、セメント・エナメル境(CEJ)から歯槽骨頂までの歯軸に平行な距離
を100倍の視野で計測した。
2)免疫組織学的分析
歯槽骨表面において、細胞質が赤色に染色している細胞をTRAP陽性破骨細胞として400倍の視野で計数し、単位長さ(1mm)あたりの細胞数として表した。
その結果、CEJから歯槽骨頂までの距離の大きさとTRAP陽性破骨細胞数は、対照群よりも歯周病群においてそれぞれ有意に高い値を示した。
またどちらの指標も、歯周病+ココア群では歯周病群よりも小さな値を示し、それらの違いは有意であった。
これらの結果は、ココア・ポリフェノールに歯周組織の炎症を抑える効果があることを示してる。
実験的に歯周病を惹起させたラットモデルにおいて、ココア・ポリフェノールの摂取は歯周組織の酸化ストレスと炎症を抑制させた。
歯科医師や歯科衛生士は、ほとんどの場合、口腔内に限局して歯周病予防や治療を行っているが、本研究の結果は、ココア・ポリフェノールなどの抗酸化物を摂取して、全身の抗酸化力を高めることもまた、歯周病の対策に重要であることを示唆している。